大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)15号 判決

事実及び理由

一  原告主張の請求原因第一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決取消事由の有無について判断する。

(一)  原告の、審決は本願考案と第一引用例との比較対照にあたり本願考案のものと同引用例記載のものとの構造上の差異を看過したため、その結論を誤つた旨の主張について

本願考案のものと第一引用例記載のものとの構造上の相違点は、審決認定のように励磁コイルが固定子側に設けられているか、あるいは回転子側に設けられているかの点にとどまらず、固定子における冷却用環状通路と磁束の通路との構造上の位置関係が、本願考案のものにおいては、固定子の内周面(空隙を介して回転子の外周面と対向している側)から外径方向に所定距離をへだてて冷却環状通路を形成し、この環状通路と右空隙との間(固定子の内周面側)を磁束の通路とすることにより、冷却用環状通路を磁束の通路の外側に位置させているのに対し、第一引用例記載のものでは、固定子の内周面に近接して環状通路を形成し、その外側を磁束の通路とすることにより、環状通路を磁束の通路の内側に位置させている点にも存することは、当事者間に争いがない。そして、第二引用例のものが電磁粒子式クラツチであつて励磁コイルを駆動側に設けることを開示しているにすぎないものであることは、弁論の全趣旨から明らかである。そうすると、本願考案をもつて第一引用例および第二引用例から極めて容易に考案できるとした審決は、本願考案と第一引用例との比較対照にあたり、本願考案と、同引用例記載のものとの構造上の差異を看過したため、その結論を誤つたものといわざるを得ない。

この点に関し、被告は、原告指摘の冷却用環状通路を固定子における磁束の通路の内外いずれの側に設けるかのごときは、励磁コイルに設けられる場所が変わるに従い、当然そのときの必要に応じ格別の考案力を要しないで任意に選択し得るところであつて、本願考案のもののようにそれが回転子側に設けられる場合には、磁気閉回路の抵抗が大きくなつて励磁コイルが大容量になるのを防ぐため、固定子における冷却用環状通路の内側をもつて磁束の通路とすることは当業者の常識であるから、これを特に構造上の差異として掲げなければならないものではない旨主張するが、審決文のどこにも被告主張のような判断が示されていると認めることはできない。したがつて、審決は、この点に関する構造上の差異を看過したものというほかはない。

(二)  被告の、本願考案と第一引用例との作用効果上の差異は、格別のものというに値しないから、本願考案が前記のような第一引用例記載のものに見られない構造上の特徴を備えているものであつても、これをもつて当業者において第一、第二引用例から極めて容易に考案し得ないような進歩性のあるものということはできないから、審決は結論において正当である旨の主張について上記構造上の差異に基づき作用効果の上でも、本願考案のものが同引用例記載のものに比し、(1)磁気通路が短くてすむことから、その磁気抵抗を小さくおさえることができ、ひいては、励磁コイルの容量がより小さいものを使用すれば事足りることになつて、励磁コイルの小型化をはかることができること、(2)冷却用環状通路を磁気閉回路ないし励磁コイルとかなり無関係に設けることができるから、冷却用環状通路の周囲に磁束の短絡防止手段を講じ、あるいは、励磁コイルとの間に冷却媒体漏洩防止手段を講ずる必要がなく、また、固定子の内周面側を肉薄に形成する必要もないこと、(3)容量の大きな制動装置に設計変更するに際しても、冷却用環状通路の形状、大きさ等をかなり自由に設計することが許されるようになつて、冷却用環状通路の工作設計が容易になること、(4)このように環状通路の形状、大きさ等をかなり自由に設計できるということから、これを大きく設計して冷却力を増大させることにより熱容量の大きな制動装置とすることが可能であることなどの点で差異があることは当事者に争いがない。ところで、(1)について、被告は、本願考案のもののように、励磁コイルを一旦回転子側に設けることにした以上、磁気閉回路を短くして磁気抵抗を小さくおさえるため、固定子における磁束の通路を本願考案のもののようにその内周面側に設けようとするのは当業者の常識に属するから、格段の作用効果とはいえない旨主張するが、これを肯認するに足りる証拠はない。(2)について、被告は、今日の工作技術をもつてすれば、冷却用環状通路の周囲に磁束の短絡防止手段を講じたり、励磁コイルとの間に冷却媒体漏洩防止手段を講じたり、固定子の内周面側を肉薄に形成したりする手段等を講ずることは格別困難なことではないから、これを要しないことに格別の意義はない旨主張する。しかし、右手段等を講ずることがかりに格別困難でないとしても、それを要しないことが工作上の利点であることは否定できない。(3)について、被告は、本願考案のものは冷却用環状通路の形状、大きさ等をかなり自由に設計し得るとはいつても、その形状、大きさ等の決定については別の面からの種々の制約を免れ得ないし、また、冷却力にしても、冷却用環状通路が摩擦熱の生ずる動作面から遠くなることから減少する一面もあるのであるから、前記作用効果もこれを装置全体より見れば特に優れたものではない旨主張する。しかし、本願考案が、被告主張のように別の一面において作用効果上の短所を備えるとしても、本願考案が冷却用環状通路を固定子における磁束の通路の外側に設けることにより前記のような作用効果を奏する装置とすることをその技術課題とし、これを達成したものである以上、それはそれなりに考案として意義のあることであつて、この結果かりに別の面において短所が生じたとしても、これをもつて本願考案の奏する作用効果を否定することはできない。

(三)  以上の次第で、被告の主張はいずれも採用できない。そうすると、本願考案をもつて第一、第二引用例から当業者において極めて容易に考案できるとした審決は、原告の主張するような違法があるというべきであり、取消を免れない。

三  よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

固定子、この固定子の内周面に空隙を介して外周面が対向した回転子、この回転子に内蔵された上記回転子と上記空隙と上記固定子とからなる磁気閉回路に磁束を流通させる励磁コイル、上記空隙に充填されこの空隙を通過する磁束により固化して上記回転子と固定子間に制動トルクを与える磁性粒子、及び上記固定子にその内周面から外径方向に所定距離をへだてて形成され冷却媒体を流通させる環状通路を備え、上記環状通路と上記空隙との間を上記固定子における上記磁束の通路とし、上記磁気閉回路の外側に上記環状通路を位置させたことを特徴とする電磁粒子式制動装置

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